『Chinese Innovators』ライブレポート「コミュニティと企業の幸福な関係」(2011.12.8開催@Bechtel Conference Center/サンフランシスコ)
サンフランシスコの北部に位置する「Bechtel Conference Center」で、「SF JAPAN NIGHT」を主催するbtrax社の新しいチャレンジがスタートした。2011年12月8日、Asia Societyというアメリカ進出をはかるアジア人の支援団体と共催で開催された「Chinese Innovators」。会場は、70人近い観客で埋まっていた。観客の多くは、中国系。会場に着く頃には、既にネットワーキングがはじまっていて、会場では中国語と英語が交じり合って響いていた。
「日本市場については、JAPAN NIGHTの開催を契機にパイプもできて、だいぶ落ち着いてきた。今度は中国マーケットを開拓しようと力を入れ始めています。」とbtrax社CEOのブランドン・ヒル氏は語る。「Chinese Innovatorsは中国マーケット向けの事業の一環で、最初の1回目なので、あまり肩の力を入れずやろうかと。」
ブランドンさんの「肩の力をいれず」という言葉とは裏腹に、会場は濃い熱気に包まれていた。ステージに立ったパネラーは4名。彼らのトークも、自然と熱を帯びた。
進行役を担当したのは、Hanson Liさん。中国系の投資銀行「HINA group」のマネージングディレクター。海外投資案件を数多く手がけている。また、アジアンアメリカンのテックコミュニティを支援する団体「AAMA Silicon Valley」でボードメンバーも務めている。
Dr.Guolin Wangは中国深センで設立されたICTソリューションカンパニーであるHuaweiのアメリカ現地法人「FutureWei Technologies」のリサーチアンドデベロップメントセンターの所長を務める。Huaweiの北米ビジネス展開をサポートしている立場から、中国企業のグローバル展開について語った。
Terry Shidnerさん。彼は、中国系SIerであり、データセンタービジネスやITコンサルタントで国際的に実績をあげているVanceInfo社のセールス・アンド・マーケット部門の責任者だ。企業向けサービスを担当するスタッフの見地から、また、非アジア系のスタッフとしての立場から、独自の視点で議論を盛り上げた。
Brad Baoさん。彼は、中国最大のインスタントメッセージングサービスである「QQ」などを展開するTencent社のアメリカ向けサービス運用の責任者だ。Tencentは中国市場を中心に6億ものアクティブユーザーを抱える企業であり、日本のGREEとも事業提携をしている。巨大市場中国の企業であるメリットをいかし、その莫大なユーザー数を武器に、国際展開を拡大している。パネラーの中では唯一、コンシューマー向けサービスを主力展開している企業だけあり、特に「ブランディング」について、鋭い見解を示していた。
パネルトークのテーマは多岐に渡った。「中国系企業が海外にビジネスを広げていくために留意すべきことは?」「中国系のチームのマネージメントについて」「中国系の人材のリクルーティングについて」「どのようにして短期間で英語圏向けサービスを展開できたか?」などなど。
Q&Aセッションでは、客席から数多くの質問が飛んだ。多くの質問者が中国系の方で、自身が関わるビジネスを英語圏などで展開するための具体的な質問が多く、「中国マーケットの世界展開」というテーマについての参加者の大きな関心が顕れていた。
鋭い質問にも、パネラーは和やかな雰囲気で答える。会場のサイズが、パネラーと客席がコミュニケーションをとるにはちょうどいい規模間で、ただのトークセッションではなく、コミュニケーションを軸にしたセッションにしたいという、オーガナイザー側の意図も感じられた。会の様子はUstreamでも配信され、オープンなイベントの雰囲気づくりに貢献していた。
btrax社で中国向けサービスを担当するTim Wagnerさん。日系企業に勤務した経歴も持ち、アジア市場に精通した彼の想いにより「Chinese Innovator」は実現した。CEOのブランドン氏に中国市場展開を提案したのもTimさん。ブランドンさんも全幅の信頼をおき、中国向けサービスの展開を彼にゆだねているという。
「今後のイベント展開は、btrax社のサービスに直接関係のあるイベントを軸にすすめていきたい」とブランドンさんは私に語った。2時間ほどのパネルディスカッションではじまった「Chinese Innovators」は、btrax社の中国市場展開の拡大と共に、新しい展開を見せていくだろう……盛り上がる会場は、そんな予感を、感じさせてくれた。
先日のブランドン氏のインタビューで触れた「JAPAN NIGHT」と今回の「Chinese Innovators」……btrax社のイベント事例は、イベントと企業のビジネスの関わり方について、大きな示唆を与えてくれる。中小規模のイベントは、それ単体では収支は大きく見込めるものではない。しかし、イベントを打つことで、人が集まり、コミュニティが生まれ、そのことが自サービスのプレゼンス向上につながる……。特に企業とイベントの関係の深いアメリカのベイエリアでは、そのようなプラスのスパイラルが、働いているようだ。
アメリカ進出するアジア系の人々を支援する「Asia Society」との共催というスタイルも、コミュニティを軸に事業を盛り上げたいというbtrax社の意思を感じさせるものだった。ネットワーキングの時間は、なかなか終わる気配を見せず、多くの参加者が名刺交換や、ビジネスの話に花を咲かせていた。異国においては、自分と近しいアイデンティティ(国籍、言語、肌の色……)を持つコミュニティとの接近は、必要不可欠になる。コミュニティの人間同士助け合うことで、それぞれがそれぞれの目的に向かって、活躍の場を広げることができる。イベントは、共に戦う仲間を得るための、有益な場となっている。
企業がコミュニティに場を提供し、コミュニティは企業に対し敬意を示し、それが企業のプレゼンスの向上、そして、新しいビジネスの展開へとつながっていく。コミュニティと企業の幸福な関係性が、このようなイベントには成立している。
ところで、アメリカにおける中国系ビジネスコミュニティの盛り上がりは日本にとっても無関係な話ではない。Brad Bao氏は、日本企業のようなブランド力をつけていくことが、中国企業の国際展開には不可欠だとトークで語り、日本企業へのリスペクトを表現していた。
「例えば、NINTENDO、SONYといったブランドは、企業自身のブランドのみならず、日本という国のブランドそのものなのです。中国企業が国際的にもっと出て行くためには、日本のように、ブランド力のあるサービスを作っていかなくてはなりません。」
日本を手本にし、日本の有する「ブランド力」に追いつき追い越そうとする、世界有数の人口と国力を誇る国・中国。中国語が飛び交うサンフランシスコの一角で、「世界最大の新興国」の勢いを、まざまざと感じさせられた。
はじまったばかりの「Chinese Innovator」だが、同じbtraxの看板イベントである「SF JAPAN NIGHT」に追いつき、追い越す日も、あるいは遠くないのかもしれない。
(執筆、撮影 河原あず/東京カルチャーカルチャー)
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