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2012年3月 9日 (金)

君野倫子さんインタビュー(第1回)~イベントを、やりたいから、やるんです。

「やりたいから、やる。それだけです。」

  2011年の11月27日、私は彼女と、異国の地で、1年振りの再会を果たした。君野倫子さん。着物、歌舞伎、育児などのライティングを得意とするライターであり、私の職場である東京カルチャーカルチャーで、市川染五郎さんのイベントの開催を実現させた、立役者でもある。現在はロサンゼルス国際空港から南に車で20分ほど走らせたトーランス・シティに住んでいる彼女が、ロサンゼルスで2本イベントを開催すると聞き、アメリカに上陸してから1週間ほど経ったその日、私は滞在先のシリコンバレーから、飛行機に乗り、ロサンゼルスへと向かった。

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君野倫子さん

 2011年の暮れも迫ろうというこの時期に、彼女は2本のイベントをオーガナイズしていた。1本は、東京カルチャーカルチャーのプロデューサー・テリー植田が発案した本と本の交換イベントブクブク交換、もう1本は、彼女自身が企画、プロデュースした着物のファッションショー「Kimono*Girl」だ。前者は再会した11月27日に開催し、後者は12月4日に開催を予定していた。

 感謝祭の興奮も冷めやらないアメリカで、クリスマスに向かうせわしない時期に、立て続けてイベントを開催する彼女に、私は移動する車の中で聞いてみた。「なぜこちらでイベントをやろうと思ったんですか?」彼女は少し考えてからこう答えた。「うーん……やりたいからやるんです。本当に、それ以上、ないんですよ。」

  君野さんとの出会いは、2010年8月に開催された、市川染五郎さんのイベント「市川染五郎の妄想歌舞伎ナイト」だった。このときは、当日の裏方のばたつきもあり、ほとんど彼女とコミュニケーションがとれなかったが、彼女の落ち着きぶりと、あの歌舞伎役者・市川染五郎と互角に渡り合うステージ上の佇まいが、大きく印象に残っていた。

 その彼女が、ロサンゼルスで、2本のイベントを企画していると聞き、私は真っ先に、取材の依頼を彼女に投げた。東京カルチャーカルチャーのイベントを知る君野さんが、どんなイベントをアメリカで開催するのだろうか。高揚感を感じながら、私はホテルのロビーで彼女と再会し、彼女の運転する車で、ブクブク交換の会場へと向かった。
 

着物は、ずっと続く「趣味」なんです。

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着物姿で妄想歌舞伎ナイトに出演する君野倫子さん(右)。中央は、市川染五郎さん。
(写真提供:東京カルチャーカルチャー
 

 もともと、君野さんは、ライターとしてキャリアをスタートさせた後、女性向けのウェブサイトで、編集長をしていた。2002年頃のことだ。「けど、昼も夜もない仕事に疲れ果ててやめちゃったんです。ウェブって、想いを込めて作っても残らないじゃないですか。」丁寧に物を作れて、きちんと形として残る仕事をしたい。その一心で、ウェブサイトを運営する会社を退職した。そして、彼女は、仕事を「サイトの運営」から「書籍づくり」に変えることを決意する。

 「本を作りたいと思ったんです。それで、企画書を書くときに、自分が読みたい、読んでいて楽しいものを作りたいと思ったんですよ。」

  彼女がまず選んだテーマは、「着物」だった。着物の着付けは、29歳から習いだした。

 「20代の頃、アメリカに住んでいたんですが、29歳になって日本に帰ったときに、自分の国の民族衣装のことをちゃんと知っておきたいって思ったんです。」そして、退職でフリーになったのをきっかけに、持っていた洋服を捨てて、彼女は普段着として着物を着るようになった。「着物はそのときからずっと続く”趣味”なんです」今や「着物」を”仕事”の1つにしている彼女は、笑いながら、私に説明した。

 アンティーク着物がはやり出した時期に、彼女の世代が読める本がなかった。それで初心者と上級者の中間層が読んで楽しめる本を作りたいと、企画書を書き、出版社に持ち込んだ。最初の着物の書籍が出版されたのは2004年のこと。評判も上々で、以来、年に1、2冊のペースで書籍を執筆している。
 

歌舞伎、そして市川染五郎との出逢い。

  彼女のキャリアを揺るがす大きな「事件」は、2005年の終わりに起きた。歌舞伎役者・市川染五郎さんとの出会いだ。

 「映画で、市川染五郎さんの着物姿を見たときに、その所作の美しさに心奪われたんです。」

  早速、彼女はその美しい「生の市川染五郎」を観たいと、歌舞伎座通いを始める。「2006年の正月から毎月一回は見に行こうと思ったんです。だけど、3月くらいの時点で、1回どころではなくなってましたね。はまっちゃったんです。」

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妄想歌舞伎ナイトに出演する市川染五郎さん
(写真提供:東京カルチャーカルチャー

 
 日本人にしか発想できないような、歌舞伎の様式美や決まりごとの数々に、君野さんは面白さを見出したという。

 「限りなくアナログの世界で、“そういうことになってます”という約束事がたくさんあるんですね。歌舞伎って。例えば、黒子がいるでしょ。だけど、黒子って見えないことになってるんです。でも、初めて観る私には、え?黒子、そこに見えてるでしょって、突っ込みたくなるじゃないですか! 他にも、デパートの屋上でやってる子ども向けの着ぐるみショーみたいな着ぐるみの動物が出てきたり、志村けんのバカ殿様のような殿様が出てきたり、ドリフターズの”8時だよ全員集合!”みたいに家ごとバンっと崩れたり……そういう1つ1つが、私には衝撃的でおかしかったんです。けど、実際はドリフターズの大道具を作ってたのは歌舞伎の大道具さんだったり、志村けんのバカ殿様も、歌舞伎のメイクからとってたりするんです。」 

 「私たちって、私たちの知らないうちに、歌舞伎から広がった世界を目にしているんですよね。そして、そういう様式を、アナログなまま、血縁でつなぐ役者さんたちや裏方さんが、江戸時代からそのまま残してくれてる。現代まで残してくださってありがとうございます! 死ぬまでに歌舞伎に出会って良かったって本当に思いました。」

  2006年1月に歌舞伎を見始めて、6月には既に企画書を書き始めていた。そして出版社に企画書を持ち込む。「歌舞伎のこと分かってないうちに企画書を書いてました。無謀だと思われるかもしれませんが、逆に歌舞伎がわかってきたら作れないって思ったんです。初心者の私が、読みたい面白いと思える歌舞伎の本を作りたいって。」出版社からは「監修者をつけることが条件」で企画が通った……が、監修者探しが難航、なかなか見つからない。

 監修者が決まらなくてはボツ企画になってしまう。「それで、出版社の編集さんから、君野さんが一番監修してほしい人の名前を挙げてみてください、といわれたんです。それで畏れ多くも素直に答えました。市川染五郎さん、って。」

 「それまで染五郎さんがインタビューやご著書で、渋谷を歩く若い女の子たちに歌舞伎を知ってもらいたいとおっしゃってて、染五郎さんなら私が作りたいと思っているものがどういうものか、わかってくださるかも!…と勝手に思ったんです。」

 染五郎さんに断られたら、この企画はあきらめよう。とにかく最後の望みを託し、当時、染五郎さんが出演してた劇団☆新感線の劇場に企画書を届けた。そして、その回答は、「少し待ってください。」

 「公演中だから当然、染五郎さんもお忙しいときだったんです。それで、その【待って下さい】というのが、前向きなのか、後ろ向きなのかだけ教えて下さいってお伺いしたんです。そうしたら答えは、”前向きに考えます”……と。もちろん、いつまでもお待ちします、ってお答えしました!」

 返事は、3ヵ月後にやってきた。「やりましょう。」着物に引き続き、趣味だった歌舞伎が、仕事になった瞬間だった。

(第2回に続く)

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コメント

君野さん、Kimono Girlでお会いした大川です。君野さんは着物の仕立てや、和装小物のクラスをお持ちでしょうか。モダン着物、
合わせを単衣にする仕立て、着物とお揃いのバックを作る、などに興味があります。ご連絡お待ちいたします。

T. Okawa

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