インタビュー

2012年3月11日 (日)

君野倫子さんインタビュー(第3回)~ブクブク交換、Kimono*Girl…アメリカに飛躍するカルチャーイベント。

イベントをやる機会を与えてもらっただけでも、ありがたいと思っています。

  2010年5月、君野さんはロサンゼルスに引っ越した。執筆活動は、日本にいたときと変わらず続けている。「仕事の関係者みんなにSkypeを入れてもらって、打ち合わせはSkype。そんなに不自由は感じません。」そして、引越しから1年弱の時を経て、彼女はイベント「ブクブク交換」をロサンゼルスでスタートした。2011年の7月に第1回を開催し、2か月に一度のペースで開催されている。私が参加した11/27のブクブク交換は、3回目の開催だ。

  そして12/4には、自身初の着物ファッションショー「Kimono*Girl」を開催。東京・お台場で始まった彼女のイベントキャリアは、海を渡り、ロサンゼルスで、更なる飛躍を見せようとしている。

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Kimono*Girl フライヤー

 
 「いろいろアメリカで日本が紹介されているのをみて、私ならこうするのに、という想いが募っていったんです。私が、こういう会場で、こういう着物のショーをやりたいと頭に描いてたら、【そこまでアイディアができてて、やりたい会場も決まっているのに、なんでやらないの?】と周りの人に言われたんです。それで、Royal/Tという、私が着物のイベントをやりたいと思ってたギャラリーに話したら、すぐやりましょうという話になったんです。アメリカって、そういうところがあるんですよ。やりたいなら、やっちゃえばいいじゃんっていう。会場も、現場の人が権限を持っているから、日本みたいに【上に確認します】とか【会議にかけてから】にならず、すぐに決められる。そういうの、アメリカならではだなって、思いますね。」

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君野さんが開催を切望した「Royal/T」ギャラリー。ジャパニーズポップカルチャーの影響を受けた展示も多数ある。


 彼女がイベントをやろうと決め準備を始めると、ロサンゼルス中から、着物モデルのボランティアや、イベントを手伝うボランティアスタッフが集まりだしたという。モデルは当初予定していなかったオーディションも開催した。

  「ロサンゼルスは広くて、コミュニティが分散しているからなのか、カルチャーの匂いのするイベントがあまりないんです。だからかもしれませんが、イベントの内容とかコンセプトとか……KimonoとAmerican Vintageというテーマをおもしろいと言ってくれて。集まる人もクオリティが高くて、みんな、よく動いてくれるんです。プロ意識の高い人たちが集まってくれて。何より楽しんでくれているのが嬉しいですね。」

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設営に関わるスタッフはボランティアで参加。日本人とアジアンアメリカンが多い。


 どうやってそれだけの人を集めたのかとたずねると、彼女は首をかしげながら「うーん、どうやってなんだろう?」と、答える。

  「私、けっこう引きこもりなので、あまりいろんなとこに顔を出したわけでもないし……けど、自然と、だんだんと仲間が増えてきた感じです。でも、こんな人がいてくれたらいいな、ということは口に出して言ってたと思います。それで人が人を呼んできてくれるというか……やっぱり人とのつながりが一番大切ですよね。」

 イベントのスタッフからは「倫子さんのイベントに関わってネットワークが一気に増えた」とか、「倫子さんの雰囲気に、人が寄ってくるんじゃない?」という声も聞こえてきたという。

  「Kimono*Girl」開催前にイベントへの意気込みを聞くと、自然体な表情で、君野さんはこう答えてくれた。

  「アメリカでは私なにもしてなくて、初めてやる大きなイベントなので、こういうことできる機会をもらえただけでありがたいって思ってるんです。でも、さっきも言いましたけど、なんでやるの? って聞かれると困ってしまう。やりたいからやるんです、他に何があるんですか? と。あ、だけど、これがうまくいったら、日本にイベントを逆輸入したいです。【Kimono*Girl】をカルチャーカルチャーでできませんか?」

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Kimono*Girlに参加したモデルも、ボランティアで参加した。


 日本発のカルチャーをアメリカへ。そしてまた、日本へ。お台場で始まった彼女のカルチャーイベントづくりへの挑戦は、太平洋をまたにかけて、新しい熱気を生み出しつつある。

 「ブクブク交換」の会場に車がつく直前に、君野さんは笑顔で私に、こう言った。

 「本当のことを言うと、私、染五郎さんのイベントを、アメリカでやりたいんです。」

 彼女は続ける。「私が歌舞伎にはまった舞台は、染五郎さんの舞踊だったんです。まったく日本舞踊なんて見たことなかったんですが、染五郎さんの舞踊を初めてみたとき、『なんだ、これは!! なんだ、この人は!』とただただ感動して、3回くらい観に行きましたね(笑)。特に染五郎さんの創作舞踊がものすごくぶっ飛んでて! 最高なんです。あの創作舞踊をアメリカのダンスや舞台好きな人たちに観てもらいたいな……と。アメリカ人が『Cool!!!!』って叫ぶ姿が眼に浮かぶんですよね(笑)。それが私の夢ですね。」

  なんでやらないの?  やればいいじゃない。いつか、市川染五郎さん本人にそう言われる日も、本当に来るのかもしれない。熱い日差しが照りつける11月末午後のフリーウェイに車を走らせる君野さんは、アクセルを踏みしめながら、まっすぐと、前を見据えていた。

(インタビュー、構成、撮影/河原あず 東京カルチャーカルチャー

2012年3月10日 (土)

君野倫子さんインタビュー(第2回)~伝説の市川染五郎さんとのイベント「妄想歌舞伎ナイト」ができるまで。

歌舞伎本の出版、そしてイベントへ…「妄想歌舞伎ナイト」ができるまで。

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 「実は私、染五郎さんのファンクラブの会員なんですが、もちろん今でも、そのファンクラブ向けに作られた小冊子とかを見ていて、きっと染五郎さんはものづくりがすごく好きな方に違いないと確信していたんです。」
と君野さんは言う。

 「その直感は間違ってなかった……と初めて打ち合わせでお会いした時に思いました。染五郎さん、私が書い た一冊分の絵コンテをご覧になっておっしゃったんです。【君野さんが作るなら、この企画は、こうした方がいいと思う】と。そのアイディアは、私が書いた企 画書とはまったく視点が違ったんです……けど、そのアドバイスは本当に的確だったんで
す。」

  企画書も絵コンテも最初から作り直しになった。素人だった君野さんのために、染五郎さんはいろいろアイディアを出し、大道具、小道具、裏方スタッフの方々や自身への取材のセッティングや撮影のサポートまでしてくれた。しかも、それだけにはとどまらず、取材の過程で、「ここはこうした方がいい」と、真剣にアドバイスをくれた。

歌舞伎をよくわかってない私が何度もとんちんかんな質問をしたりしたと思うんですが、一度もいらだったり、上から目線で話されたりすることはなかったです。いい本にしようと思ってくださっているのが伝わってきて、最後は校正までしてくださいました。」

 多忙を極める染五郎さんのスケジュールにもあわせ、ゆっくりと本の制作は進行した。最初の歌舞伎本の完成までには、2年近くを要したという。

「印刷があがってきた時、染五郎さんに本をお持ちしたときのことを、今でもよく覚えてます。名古屋の公 演の真っ最中で、できたてホヤホヤの本を楽屋にお持ちしました。他人事ではなく、自分の本のように喜んでくださいました。ご本人だけでなく、関わった裏方 さんたちもとても喜んでくださって。」

  第2弾の出版も決まったが、書籍化の企画は2冊目でいったん終了の流れになった。そこで2010年1月、第2弾が発売になった時、「1冊目はできなかったから、出版記念に何かやりたいね」と銀座の書店でトークショーとサイン会が実現した。「この本は君野さんの本だからね……」と気遣いながら、染五郎さんも来場した人ひとりひとりにサインをしてくれたという。

 君野さんが渡米してから、染五郎さんの舞台を観に行った友人から、劇場の売店で染五郎さんの著書だけではなく、自身のサインをした君野さんと作った本も売られていたという話を聞いたそうだ。

 「染五郎さんは私の本を売ったことについて、何もおっしゃらないんですよ。何も知らなくて。でも本当に嬉 しかったです。2冊の本を丁寧に一緒に作ってくださったのは、若い人たちにもっと歌舞伎を知ってもらいたいと、誰よりも染五郎さんご自身が願っていらっ しゃったからだと思うんです。」
と君野さん。

 そのトークショーとサイン会の数ヵ月後、東京カルチャーカルチャーから、イベントの話が来た。東京カルチャーカルチャーのイベントプロデューサー・テリー植田に「君野さん、初心者にわかる歌舞伎のイベントをやりませんか?」と打診されたとき、君野さんは直感的にこう思った。「染五郎さんと一緒にやると絶対、面白いイベントになる。」

 
「カルチャーカルチャーのみなさんは、染五郎さんがまさか来るとは思ってなかったそうですが、私は染五郎さんと一緒にやった方が、絶対に楽しいってテリーさんに言ったんです。染五郎さんと一緒に、ブログ上で【somelabo】という、染五郎さんの妄想を 形にして発表するというコーナーをやっているんですが、そのイベントをやりませんか? と染五郎さんにお話して。」  

 「一緒に本を作っている時に、ホントにすごい方だなぁと思ってたんです。七代目市川染五郎という歌舞伎役 者としては、もちろんなんですが、頭の回転が速くて、クリエイティブで、発想力と妄想力はとにかく驚かされてばかりで。でも、そういう染五郎さんのユニー クさとか、妄想力とか、あまり知られてない気がして。その魅力を世の中に伝えられたらな……と。最初、私は本を作りたいって思っていたんですが、イベント なら直接的に伝えることができる気がして」

  イベント化を打診する君野さんに、染五郎さんの答えはイエス。早速、打ち合わせの場を持つことになった。しかし奇しくも、イベントの打ち合わせ初日は、君野さんがロサンゼルスに引っ越した直後。

 「それで、私、染五郎さんに、パソコンにSkype(※無料で使えるインターネットテレビ電話サービス) を入れていただいたんです。それで、打ち合わせがはじまる前から、パソコンに私を映してもらって、新橋演舞場の染五郎さんの楽屋まできたテリーさんを、パ ソコン越しに紹介しまして(笑)。イベント1回目も2回目も打ち合わせはSkypeでした。」

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画像提供:東京カルチャーカルチャー

 イベント「市川染五郎の妄想歌舞伎ナイト」は 2010年8月のお盆に開催され、チケットは即完売。有料ネット配信でも100人以上の方がイベントを見守った。染五郎さんもイベントをとても楽しんで、 打ち上げの飲み会は、夜更けまでずっと続いた。市川染五郎さんの「妄想力」を爆発させたこのイベントは大きな反響をファンや関係者を中心に呼び、電子書籍 化までされた。すぐに第2回の開催も決まり、2011年8月のお盆に、続編の「市川染五郎の妄想歌舞伎ナイト 第2章」が開催された。  

 「染五郎さんの新しい一面を皆さんに知ってもらいたいと思ってイベントの提案したんですが、イベントの後、劇場のロビーで染五郎さんのファンの方から『妄 想歌舞伎、ホントに楽しかったです。企画してくださって、ありがとうございます。また、次も楽しみにしています』と声をかけていただいくことが何度かあっ て、すごく嬉しかったです。それと、あのイベントは、出演者やスタッフのみんなが染五郎さんに喜んでもらいたいって、思ってるじゃないですか。当日、染五郎さんをどう喜ばせて、びっくりさせるかに命をかけてるというか……その雰囲気もすごくいいですよね。」

(第3回に続く)

2012年3月 9日 (金)

君野倫子さんインタビュー(第1回)~イベントを、やりたいから、やるんです。

「やりたいから、やる。それだけです。」

  2011年の11月27日、私は彼女と、異国の地で、1年振りの再会を果たした。君野倫子さん。着物、歌舞伎、育児などのライティングを得意とするライターであり、私の職場である東京カルチャーカルチャーで、市川染五郎さんのイベントの開催を実現させた、立役者でもある。現在はロサンゼルス国際空港から南に車で20分ほど走らせたトーランス・シティに住んでいる彼女が、ロサンゼルスで2本イベントを開催すると聞き、アメリカに上陸してから1週間ほど経ったその日、私は滞在先のシリコンバレーから、飛行機に乗り、ロサンゼルスへと向かった。

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君野倫子さん

 2011年の暮れも迫ろうというこの時期に、彼女は2本のイベントをオーガナイズしていた。1本は、東京カルチャーカルチャーのプロデューサー・テリー植田が発案した本と本の交換イベントブクブク交換、もう1本は、彼女自身が企画、プロデュースした着物のファッションショー「Kimono*Girl」だ。前者は再会した11月27日に開催し、後者は12月4日に開催を予定していた。

 感謝祭の興奮も冷めやらないアメリカで、クリスマスに向かうせわしない時期に、立て続けてイベントを開催する彼女に、私は移動する車の中で聞いてみた。「なぜこちらでイベントをやろうと思ったんですか?」彼女は少し考えてからこう答えた。「うーん……やりたいからやるんです。本当に、それ以上、ないんですよ。」

  君野さんとの出会いは、2010年8月に開催された、市川染五郎さんのイベント「市川染五郎の妄想歌舞伎ナイト」だった。このときは、当日の裏方のばたつきもあり、ほとんど彼女とコミュニケーションがとれなかったが、彼女の落ち着きぶりと、あの歌舞伎役者・市川染五郎と互角に渡り合うステージ上の佇まいが、大きく印象に残っていた。

 その彼女が、ロサンゼルスで、2本のイベントを企画していると聞き、私は真っ先に、取材の依頼を彼女に投げた。東京カルチャーカルチャーのイベントを知る君野さんが、どんなイベントをアメリカで開催するのだろうか。高揚感を感じながら、私はホテルのロビーで彼女と再会し、彼女の運転する車で、ブクブク交換の会場へと向かった。
 

着物は、ずっと続く「趣味」なんです。

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着物姿で妄想歌舞伎ナイトに出演する君野倫子さん(右)。中央は、市川染五郎さん。
(写真提供:東京カルチャーカルチャー
 

 もともと、君野さんは、ライターとしてキャリアをスタートさせた後、女性向けのウェブサイトで、編集長をしていた。2002年頃のことだ。「けど、昼も夜もない仕事に疲れ果ててやめちゃったんです。ウェブって、想いを込めて作っても残らないじゃないですか。」丁寧に物を作れて、きちんと形として残る仕事をしたい。その一心で、ウェブサイトを運営する会社を退職した。そして、彼女は、仕事を「サイトの運営」から「書籍づくり」に変えることを決意する。

 「本を作りたいと思ったんです。それで、企画書を書くときに、自分が読みたい、読んでいて楽しいものを作りたいと思ったんですよ。」

  彼女がまず選んだテーマは、「着物」だった。着物の着付けは、29歳から習いだした。

 「20代の頃、アメリカに住んでいたんですが、29歳になって日本に帰ったときに、自分の国の民族衣装のことをちゃんと知っておきたいって思ったんです。」そして、退職でフリーになったのをきっかけに、持っていた洋服を捨てて、彼女は普段着として着物を着るようになった。「着物はそのときからずっと続く”趣味”なんです」今や「着物」を”仕事”の1つにしている彼女は、笑いながら、私に説明した。

 アンティーク着物がはやり出した時期に、彼女の世代が読める本がなかった。それで初心者と上級者の中間層が読んで楽しめる本を作りたいと、企画書を書き、出版社に持ち込んだ。最初の着物の書籍が出版されたのは2004年のこと。評判も上々で、以来、年に1、2冊のペースで書籍を執筆している。
 

歌舞伎、そして市川染五郎との出逢い。

  彼女のキャリアを揺るがす大きな「事件」は、2005年の終わりに起きた。歌舞伎役者・市川染五郎さんとの出会いだ。

 「映画で、市川染五郎さんの着物姿を見たときに、その所作の美しさに心奪われたんです。」

  早速、彼女はその美しい「生の市川染五郎」を観たいと、歌舞伎座通いを始める。「2006年の正月から毎月一回は見に行こうと思ったんです。だけど、3月くらいの時点で、1回どころではなくなってましたね。はまっちゃったんです。」

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妄想歌舞伎ナイトに出演する市川染五郎さん
(写真提供:東京カルチャーカルチャー

 
 日本人にしか発想できないような、歌舞伎の様式美や決まりごとの数々に、君野さんは面白さを見出したという。

 「限りなくアナログの世界で、“そういうことになってます”という約束事がたくさんあるんですね。歌舞伎って。例えば、黒子がいるでしょ。だけど、黒子って見えないことになってるんです。でも、初めて観る私には、え?黒子、そこに見えてるでしょって、突っ込みたくなるじゃないですか! 他にも、デパートの屋上でやってる子ども向けの着ぐるみショーみたいな着ぐるみの動物が出てきたり、志村けんのバカ殿様のような殿様が出てきたり、ドリフターズの”8時だよ全員集合!”みたいに家ごとバンっと崩れたり……そういう1つ1つが、私には衝撃的でおかしかったんです。けど、実際はドリフターズの大道具を作ってたのは歌舞伎の大道具さんだったり、志村けんのバカ殿様も、歌舞伎のメイクからとってたりするんです。」 

 「私たちって、私たちの知らないうちに、歌舞伎から広がった世界を目にしているんですよね。そして、そういう様式を、アナログなまま、血縁でつなぐ役者さんたちや裏方さんが、江戸時代からそのまま残してくれてる。現代まで残してくださってありがとうございます! 死ぬまでに歌舞伎に出会って良かったって本当に思いました。」

  2006年1月に歌舞伎を見始めて、6月には既に企画書を書き始めていた。そして出版社に企画書を持ち込む。「歌舞伎のこと分かってないうちに企画書を書いてました。無謀だと思われるかもしれませんが、逆に歌舞伎がわかってきたら作れないって思ったんです。初心者の私が、読みたい面白いと思える歌舞伎の本を作りたいって。」出版社からは「監修者をつけることが条件」で企画が通った……が、監修者探しが難航、なかなか見つからない。

 監修者が決まらなくてはボツ企画になってしまう。「それで、出版社の編集さんから、君野さんが一番監修してほしい人の名前を挙げてみてください、といわれたんです。それで畏れ多くも素直に答えました。市川染五郎さん、って。」

 「それまで染五郎さんがインタビューやご著書で、渋谷を歩く若い女の子たちに歌舞伎を知ってもらいたいとおっしゃってて、染五郎さんなら私が作りたいと思っているものがどういうものか、わかってくださるかも!…と勝手に思ったんです。」

 染五郎さんに断られたら、この企画はあきらめよう。とにかく最後の望みを託し、当時、染五郎さんが出演してた劇団☆新感線の劇場に企画書を届けた。そして、その回答は、「少し待ってください。」

 「公演中だから当然、染五郎さんもお忙しいときだったんです。それで、その【待って下さい】というのが、前向きなのか、後ろ向きなのかだけ教えて下さいってお伺いしたんです。そうしたら答えは、”前向きに考えます”……と。もちろん、いつまでもお待ちします、ってお答えしました!」

 返事は、3ヵ月後にやってきた。「やりましょう。」着物に引き続き、趣味だった歌舞伎が、仕事になった瞬間だった。

(第2回に続く)

2012年2月18日 (土)

アリソン・マードックさんインタビュー(後編)~イベントを通じて、文化を豊かにするということ。

ゴールは、参加者がリラックスできる会場を作ること

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 会場には400人の人々が集まる。その多くは、ダイレクトメールや、ツイッター、Facebook、Plancast、eventbriteなどのソーシャルメディアを介して、イベントのことを知る。もちろん、バンド関係者を中心とした口コミも、集客のための大事なポイントになる。

 The Barricades100%Allen MaskIngar Brown & the Future FunkCoverflowfeedbombOpen Source BandFox Picnicという8つのバンドやグループが、2011年のシリコン・バレー・ロックスのステージに上がった。例えばAllen Maskは、Googleに勤める若い2人によるヒップホップユニット。Open Source Bandは、この日のイベントのために結成された、メンバーの年齢層も様々なバンドだ。特筆すべきは、freebombというバンド。

 「freebombにはね、マーク・ザッカーバーグの妹・ランディが参加しているのよ。Facebookの社員もメンバーなの。」

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ランディ・ザッカーバーグさん。かの、マーク・ザッカーバーグの妹だ。

 
 他にも、西海岸特有のパワーポップを演奏するバンドもあれば、往年の名曲をカバーしてフロアを盛り上げるコピーバンドもいた。ジャンルも様々で、年齢層も様々なステージ。それと重なるように、フロアの年齢層や客層も、また様々だった。スーツを着た人もいれば、Tシャツを着た若者もいた。人種もミックスされていて、音楽を媒介にした、フラットな空間が作られていた。

 「それも狙いなの」と彼女は言う。「ブッキングは、持っていチャネルを使うの。募集をかけて情報を流すと、メールやフォームで応募がくる。それに、バンドの情報はよく入ってくるしね。例えば、Googleに素晴らしいラッパーが働いているという情報が口コミで流れてくる。Allen Maskのことね。そういうバンドを私は、スタイルやジャンルが違うバンドをあえて選んで招待するの。毎年、やってくるお客さんが入れ替わるように、バンドも入れ替えているわ。」

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Googleの若手社員2人による本格ヒップホップユニット「Allen Mask」

 
 アリソンは、ブッキングの際に、若いバンドと、音楽性も違うベテランのバンドを混ぜている。結果として、それぞれのバンドのファンのグループが会場に集まるし、会場の客層はうまい具合にミックスされる。若いバンドはイベントに対して献身的に協力してくれるし、ベテランのバンドは流行曲をコピーして、ステージを盛り上げてくれる。シリコン・バレー・ロックスは、それぞれのバンドがそれぞれの役割を果たすことで、参加者がリラックスして楽しめる空間を作ることに成功している。

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 「私たちのゴールは」と彼女ははっきりと私に言う。「参加者がリラックスできる会場を作ることなのよ。音楽があるから、普通のネットワーキングイベントより、リラックスしてみんな交流できると思わない?」

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ネットワーキングが行われているフロア。

 
イベントをすることで音楽教育を助ける。それは素晴らしいことだと思わない?

 音楽を媒介にし、ファンドレーザーイベントという形にすることで、イベントは、音楽を愛する人たちで埋まっている。それは、ステージやフロアのみならず、スポンサーについても同様である。

 「スポンサーは12社ついたわ。スポンサーが、スポンサードしてくれる理由は2つあるの。1つは、彼らが、音楽を愛していること。バンドのパフォーマンスが好きで、イベントが好きで、オーディエンスが好きだということ。そしてもう1つは、リクルーティングよ。」

 会場には、たくさんの優秀な技術者が集まる。スポンサー企業は、彼らに自社サービスをアピールし、そして直接コンタクトできる。トップスポンサーの天気情報配信サイト・ウェザーアンダーグランド社は、この日、「誰でもバンドのメンバーになれる」という触れ込みの記念撮影ブースを設けて、無料で来場者に開放していた。ブースにはひっきりなしにフロアの人々が訪れ、サービスの紹介や、ネットワーキングがブースの近くで始まっていた。彼らの目的は、サービスの認知向上と、有能な技術者の獲得だという。ベイエリアでは、有能な人材の確保を狙うスタートアップ企業が、多くのイベントに協賛し、来場者との接点を広げているという。

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ウェザー・アンダーグラウンド社の記念撮影ブース。天気予報でおなじみの合成技術を使い、背景がライブステージの写真と合成されて、自分がステージで演奏しているかのような記念写真がとれる。

 
 では、イベントをボランティアでオーガナイズする側のメリットはあるのだろうか? 単刀直入にアリソンに聞いて見ると、彼女ははっきりと答えた。「もちろん。」

 「3、4年間、私はコンサルタントとして働いているんだけど、それとは別のアイデンティティをシリコン・バレー・ロックスをやることで確立できたのよ。それに、ネットワークづくりに、イベントのオーガナイジングはとても役立つの。例えば名の知れたバンドとか、とても名の知れた人……【ハイ・プロフィール】な人たちと、同じレベルでつながることができるの。楽器もそう。バンドはネットワーキングにとても有効なのよ。あなたドラム弾けるの? 私はベースが弾けるの……ってね。あなたはキーボードが弾けるのよね? きっと私より上手よ(笑)」

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 けどそれだけじゃないわ、と、アリソンは、彼女がイベントを続けるモチベーションについて語る。

 「さっきも言ったけど、私は音楽教育を育てることで、音楽文化が豊かになっていくと信じているの。音楽学校は、アメリカだけではなく、ヨーロッパや日本にも増えているでしょう? 子供が受身になるのではなく、自分で考えていろいろなコンセプトを元に受けたい教育を選べて続けられる環境ができるのは、子供たちの創造性にとってとても大事なことだと思うの。例えば、読み書きが苦手でも、実はとても素晴らしいミュージシャンになれる子だったいるわけじゃない? 音楽教育を支え続けることが、大事だと私は思っている。私には、他にお金を作る方法がない。だけど、イベントをすることで、音楽教育を助けることができるのよ。それは、とても素晴らしいことだと思わない?」

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 今後のシリコン・バレー・ロックスをどうしていきたいかと聞くと、彼女は、笑いながら「正直言うと、先のことなんて、分からないわ」と前置きしつつ、ゆっくりと語り始めた。

 「バンドに限らず、他の音楽ジャンルのイベントにもチャレンジしたい。アコースティックなシンガーソングライターのイベントとかね。私は、技術系の会社と、ミュージシャンのネットワークを作りたいのよ。誰がどんな楽器を、音楽をやっていて、どこで働いているかってね。働きながら音楽をやる人は、アメリカでもそこまで多くはないの。学校を卒業したら、楽器もやめちゃう……とかね。だけど、音楽をやっている人は、少なくもないし、それはとても素晴らしいことだと思うの。みんな一生懸命働くし、私もそう。だけど音楽にせよスポーツにせよ、趣味があると、日常生活を楽しくできるじゃない? 私の場合はね、イベントをやることで、音楽についてより深く知ることができたのが、とても嬉しかったのよ!」

 音楽が、人と人をつなぐ線になる。アリソンの信念で出来上がったシリコン・バレー・ロックスは、そんなことを改めて実感させてくれる。彼女は技術者ではない。しかし、ベイエリアの広大な技術者のコミュニティの中で、人々の生活を、文化を、より豊かにする技術を、発明できたのかもしれない。

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(インタビュー、構成、撮影/河原あず 東京カルチャーカルチャー

2012年2月17日 (金)

アリソン・マードックさんインタビュー(前編)~音楽ライブ・ミートアップ「シリコン・バレー・ロックス」

音楽ライブ×ミートアップ「シリコン・バレー・ロックス」

 サンフランシスコの北部、海の近くに、そのクラブはあった。2011年の12月1日、DNA Loungeと名づけられたクラブスペースには、400人を超える人たちが集まっていた。入場待ちの列は途切れることを知らず、整列をうながすスタッフの声が会場の外に響き渡る。壁の向こうから、大きな音が聞こえる。ドラムの音、ベースの低音、そしてシャウト……ステージでバンドの奏でている音だ。

 会場に入ると、ステージではバンドがオリジナルのロック・ミュージックを奏で、フロアではたくさんの人たちが踊ったり、談笑したりしていた。アメリカのライブハウスと聞いて日本人が想像するような危険な空気や猥雑な雰囲気は、まったくない。平和で、暖かい空気と、熱いロックンロールが混ざり合って、会場を包み込んでいた。

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DNA Lounge外観

 「シリコン・バレー・ロックス(Silicon Valley Rocks)」……それが、このイベントの名前。普通の音楽ライブとは、ちょっと違うイベントだ。実は、ステージに上がっているバンドは、シリコンバレーやサンフランシスコ、つまり西海岸ベイエリアで働いている、ベンチャー企業――スタートアップや、テック企業や、ベンチャーキャピタルの社員なのだ。ステージに上がったメンバーの会社名をあげてみると、そのライブの特異性は一目瞭然。Facebook、Google、Adobe、Dropbox……よくよく会場を見渡してみると、名刺を交換している人がたくさんいる。何人かを捕まえて話をきいてみると、彼らは、やはりスタートアップのスタッフであり、ベンチャーキャピタルのスタッフだった。

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 さっきまでステージに上がっていたアーティストたちが、フロアに下りてきて、名刺交換や自己紹介をしている。音楽の話だけでなく、ビジネスの話も飛び交う。客層は、まるで、ベイエリアで開催されているネットワーキングパーティや、ピッチイベントのようだった。「イベントは一方通行のコミュニケーションであり、ミートアップはコミュニティである」……スコット・ハイファマンの言うミートアップの定義に即するならば、このイベントは、音楽ライブであると同時に、ミートアップでもある。ミートアップの新しい形が、そこには確かにあった。

 アリソン・マードック(Alison Murdock 以下、アリソン)、シリコン・バレー・ロックスを立ち上げたオーガナイザーが、フロアで私を見つけて、話しかける。「いい取材はできている?」 私は答えた。「もちろん、こんなピースフルな音楽ライブには、初めて参加したよ!」

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アリソン・マードック(Alison Murdock)


音楽教育を育てることが、音楽文化を豊かにすることにつながるって信じているの

 アリソンは、GigaOMという、サンフランシスコに拠点を持つオンラインメディア企業のマーケティング部門の責任者だ。彼女は、4年前に、プライベートでシリコン・バレー・ロックスを立ち上げ、1年に1回、年末にサンフランシスコで、このユニークな音楽ミートアップを続けている。

 「昔、音楽をやってたんだけど、しばらく遠ざかったの。けど、4年前に、楽器をまたさわりはじめたのよ。それで、再開したときに、音楽仲間と話をしてて、シリコンバレーにはたくさんのミュージシャンがいるということに気づいたの。たくさんのギタリスト、ドラマー、ベーシストがいるってね。ちなみに私は、ベーシストなのよ。」

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 技術者や科学者は、プレイが上手くて、理論についても詳しいことが多いとアリソンは言う。アリソンの会社は、テック系のイベントも開催していて、技術系コミュニティにネットワークを持っていた。

 「テック・コミュニティにはネットワークがあるのだけど、そのときは、趣味の世界にはネットワークがなかったの。同じくらいたくさんの人がいるのにね。それで、思ったの。音楽で、イベントをやろうって!」

 彼女がイベントを開催するにあたり、決めたことが1つあった。それは、イベントでお金を儲けるのはやめる、ということだ。彼女は、全ての収益を、ファンド支援に充てることに決めた。それは、音楽学校のボードメンバーが立ち上げた、音楽教育プログラムをサポートするためのファンドだった。

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 「シリコン・バレー・ロックスは、ファンドレーザーイベントなの。」

 ファンドレーザーイベントとは、チャリティイベントの一種で、主に教育機関などへの寄付の形として実施されることが多い。例えば、アメリカでは、学校が主催でバザーなどを開催し、その収益を、学校運営のためのファンドに充当することがある。アリソンは、音楽教育支援の必要性について、次のように語る。

 「この国にはね、たくさんの音楽学校があるんだけど、学校への補助はどんどん予算から削られているのよ。だから、音楽教育をオーガナイズする人たちは、ファンドを作って、資金をつのり、それを学校に還元しているの。私は、音楽教育を育てることが、音楽文化を豊かにすることにつながるって信じているの。私は音楽が好きだし、なんとか、音楽のためになることをしたかったのよ。」

 イベントを開催しようとすると、彼女の考えに同調する、たくさんの音楽を愛する仲間が集まった。この日司会進行を勤めた女性は、ラジオ局に勤めるプロのDJだった。ボランティアは総勢20名弱。彼女は、2人のステージマネージャーと共に、このボランティアをまとめあげ、自身もボランティアでイベントを運営している。

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MCは本職のラジオDJがボランティアで務めた

 集まるのは、ボランティアだけではない。スポンサーや参加するバンドのメンバーも、アリソンの考えに共感し、集まっていった。「イベントをチャリティーにすることの利点は、私たちの考えに賛同する音楽に関わる人たちをどんどん巻き込めることね。【それはいい考えだ!協力するよ!】ってね。もちろん、スポンサーも含めて。だから、ちゃんと収益が上がるのよ。」

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 毎年、15前後のバンドが出演を希望し、30,000ドルの収益が上がる。収益はチケット代や、スポンサー、そして、会場で実施されているチャリティオークションからあがり、その収益は全て、音楽教育を支えるための、ファンドに寄付されている。

(後編に続く)

2012年2月 7日 (火)

マシュー・ハントさんインタビュー第3回~日本とコワーキング、そしてミートアップ…コラボレーションで社会を変える方法。

日本人は、コワーキングに素晴らしいキャッチアップをしている。

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シチズンスペースのシンボル「シャンデリア」。この灯りの下で、数多くのコラボレーションが生まれている。

 ——僕も、ソーシャルメディアをたくさん使ってるんだけど、君はそれ以上だと思うよ。忙しそうだね。

 マット「とても忙しい! 僕はね、ソーシャルネットワーキングフリークなんだ。僕はこれら全部のサービスを知り尽くしてるよ。そして、いつでも、ソーシャルメディアにいる。もう日常なんだ、ソーシャルメディアの中にいるのは。

 君がきたピッチイベントではたくさんの会社が参加しただろう? ワインの会社があったり、ゲームの会社があったり、実に様々だった。実は、ソーシャルメディアで全部、ブッキングしたんだ。僕はとにかく、膨大なツイートをしてるんだ。僕のツイッターアカウントを見てごらん。(PC画面を見せながら)この会社に話しかけてるだろう? ……これが返事だ。

 ミートアップに参加してほしい会社があったら、まずソーシャルメディアで接触するんだ。君が来たピッチコンテストに来た会社はほとんど、はじめてあのときシチズンスペースにきたはずだよ。僕も、彼らの事は直接知らなかったし、会った事ももちろんなかった。スポンサーも含めて、僕はいろいろな会社に、メールやソーシャルメディアで、コンタクトをとり続けているんだ。」

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自ら営む農園でとれた果実で作られたジュースやジャムをプレゼンする女性。ピッチコンテストの出場者は、テックコミュニティの住人に限らない。マットは、彼女もツイッターを通じてブッキングした。

 ——ところで、君は日本のこともよく知っているね。日本でも、コワーキングスペースが増え始めているんだけど、それについてどう思う?

 マット「日本人は、ここ最近、コワーキングについてとても素晴らしいキャッチアップをしていると思う。シチズンスペースには、日本人の会員もたくさんいたよ。あと、btraxを知ってるかい?」

 ——ジャパンナイト主催者だね。ジャパンナイトのアフターパーティもシチズンスペースが会場だったね。僕はbtraxのブランドンさんにインタビューしたから、よく彼のことは知っているよ。

 マット「そう、ブランドンはよくシチズンスペースでイベントをやっているんだ。彼らのレギュラーイベントが僕はとても好きだよ。あと、シチズンスペースは日本のべンチャーキャピタルのサムライインキュベートともパートナーシップを持っているんだ。

 ——サムライインキュベートの榊原健太郎さん(同社CEO)にも、アメリカに来る前に逢ったよ。東京のベイエリア(天王洲アイル)に大きなコワーキングの拠点を構えて、毎週イベントを開催していると聞いた。

 マット「君は、ケンタロウも知ってるんだね。素晴らしい。サムライのスタッフはたくさん知ってるよ。スタートアップキャンプというイベントのスタッフとして一緒に関わったこともある。

 いずれにせよ、東京はたくさんの人がいるし、コワーキングは有効だと思う。家賃が高いし、コワーキングスペースを作ればそのコストを減らせる。そして、日本人は、コラボレーションの方法を良く知っているからね。

 この間も、日本の人たちがヒアリングしにきたんだ。そして、日本で新しいコワーキングスペースを立ち上げた。日本人はインテリジェンスだから、きっとコワーキングスペースは、すぐに広がっていくと思うよ。そこで、ネットワーキングをして、コラボーレーションをして、イベントを開催できる。そういう場が増えると、素晴らしいよね。」

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シンボルである「シャンデリア」がロゴになったシチズンスペースのサイン。日系の企業との関係も深い。


ミートアップを開催することで、コミュニティにいいインパクトが生まれるんだ。

 ——僕は、ミートアップを、文化として、日本に広めたいと思っているんだ。ちょうど、ミートアップ社のスコット・ハイファマンが9.11の後にアメリカのコミュニティの危機を感じリアルコミュニケーションの重要性を感じて、ミートアップを発明して広めたようにね。日本は3.11と呼ばれる、大きな地震により、大きな危機を迎えているんだ。だからこそ、リアルコミュニケーションが、今の日本にはもっと必要だと思っている。

 マット「同意するよ。危機的な状況でコミュニティを強くするには、ミートアップはとても役立つだろうね。僕もそう思う。

 僕個人の話をすると、ミートアップについては、とにかく、ネットワークやブランドを広げたいんだ。そして、人々が一緒に助け合い、働くことの素晴らしさを伝えていきたい。それは、社会を変える、唯一の方法だと僕は思うんだ。

 今、僕らには、インターネットがある。だから、インターネットで、人々とつながりを持ち続ける事はできる。だけどミートアップは、足を運ばないと参加できない。リアルコミュニティでは、よりネットワークが深まるし、コラボレーションが生まれるし、色々なチャンスがある。それがインターネットでのコミュニケーションの盛り上がりにもつながってくる。ミートアップを開催することで、コミュニティに、ポジティブなインパクトが生まれる。それは本当に、日本にも有益だと思うよ。君の意見に賛成だ。本当にそう思う。

 ところで、日本にはミートアップグループはあるのかい?」

 ——いくつかあるし、僕らのイベントスペースもいくつかのミートアップを開催している。だけど僕は思うに、アメリカに比べてとても少ないし、規模が小さい。例えばテックコミュニティやビジネスコミュニティの勉強会のようなムーブメントはあるけど、まだ一般の層には浸透はしていないんだ。

 マット「何か手助けができるといいね。日本でもミートアップを広めるには、いつでもソーシャルメディアを使うことだと思う。自由に使えて、どんなユーザーとも、いつでもすぐにつながることができるからね。

 もし君が新しいミートアップを立ち上げたとして、スポンサーを集めたり、参加者を集めたり、ブランディングをする。例えばそれは、ツイッターを使えばできるんだ。さっきも説明した通り、僕はいつでも、企業のアカウントとコミュニケーションをツイッターでとっているよ。いつも話しかけて、いつもレスポンスを返してる。

 ネットであれリアルであれ、コミュニケーションがさかんな場所は、どんどん良い場所になってくるはずだ。ソーシャルメディアは、よりはやく、より有効に人と人とがつながるいい手段なんだ。それを生かす事で、新しいコラボレーションが更に生まれてくるはずだ。

 僕は今、ソーシャルメディアやコワーキングについての原稿を書くライターをやっているんだ。日本にこういう事例を紹介することで、日本でミートアップが広がる手助けができるといいね。もちろん英語の原稿になるんだけど、もし興味がある編集者がいたら紹介してほしいな(笑)。あと、いつか日本でスタートアップのイベントを開催してみたいんだ!」

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マットの飼っているパグ犬。「彼女」も、シチズンスペースで開催されたミートアップに参加し、参加者との交流を深めていた。

(インタビュー、構成、撮影/河原あず 東京カルチャーカルチャー

2012年2月 6日 (月)

マシュー・ハントさんインタビュー第2回~コラボレートするイベントコミュニティ・ミートアップ。

イベントは、コワーキングスペースのフィロソフィーに合致するんだ。

 ——なぜイベントの開催がコワーキングスペースにとって大事なんだろう?

 マット「いろいろな、重要な理由があるよ。ひとつは、イベントが、たくさんの人たちを、スペースに呼ぶから。たとえば、そう、君がきたじゃないか。君は完璧な例なんだ。つまり、誰かがスペースにやってきて、イベントをみて、そして興味を持つ。そうだろう? そして、今まで知らなかったもの同士が、一緒に働いたり、このスペースを知ってこのスペースを使うようになる。新しいものをつくり、新しいことを学び、ネットワーキングをすることができる。

 イベントは、コワーキングスペースのフィロソフィー(哲学)に合致するんだ。そして、イベントは、コワーキングの紹介にもなる。ミートアップは、コワーキングスペースへの最初の入り口として、とても役立つんだ。

 イベントやミートアップは、本当の意味で、人々を結び付けるんだ。そしてイベントを続けることで、参加者は、関係性をずっと維持することができる。そして、そこでおこる、様々なクールなことに出逢うことができる、イベントは、コワーキングやネットワーキングの素晴らしい機会を、関わる人々に与えてくれるんだ。」

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 ——中でも、ミートアップ形式のイベントを大事にしているらしいね。君が管理している、Meetup.comのコミュニティもみたけど、たくさんの人が参加してたね。なぜ、ミートアップ形式のイベントが大事なんだろう? それはただのイベントと、何が違うのかな?

 マット「コワーキングスペースはとてもコラボレーティブなコミュニティなんだ。一緒にみんな協力しあう場だから。ミートアップはコラボレーティブなコミュニティイベントだから、コワーキングスペースに合うんだよね。」

お互いがコラボレートすることが大事だし、コミュニティならそれができるんだ。

 ——僕はMeetup.comのCEOに会って、ミートアップは、ただのイベントとは違い、コラボレーティブな空間だって聞いたんだ。それは、そのまま君のオーガナイズするミートアップにも、当てはまるということだね?

 マット「その通り。100%、当てはまるよ! 人々がコラボレーションのために1つの場に集まるというのは、とても素晴らしいことだ。ソーシャルなミートアップが、サンフランシスコ/ベイエリアでもたくさん開催されているし、そこでコラボレーションやネットワーキングが起きる。お互いに会話をして、新しいものが生まれるんだ。ミートアップをすることは、コミュニティを作ることでもあるんだ。とても、面白いよね。

 君の言う通り、僕は、いくつかのMeetup Groupを幾つか管理してるし、あわせて1000人以上の人が参加しているよ。【Social Media Everywhere】は一番大きいものかな。君が入った【Startup Saturdays】は3週間前に作ったからまだ小さいけど、もっと大きいコミュニティはたくさんあるよ。」

 ——マットは、どんなジャンルのイベントやミートアップをやっているの?

 マット「ソーシャルメディア、デヴェロップメントなどが中心だね。テクノロジーを使う人のためのイベントもある。なぜなら、テクノロジーを使うには、たくさんのリスクがあるからね。だからノウハウを共有する場を作ろうと思ったんだ。ソーシャルメディアに対するスキルを教えあったり、コラボレートするためのワークショップもやっている。そうそう、ちょうど、夕べ新しいミートアップグループを作ったんだ。(PCの画面を見せながら)参加者が0だろ? だから、君がこのグループを、最初に目にしたと思うよ。」

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 ——なぜ、ミートアップには、コミュニティが大事だと思う?

 マット「コミュニティのみんなが、他の人が参加するのを歓迎してくれるからかな。お互いに、コラボレーションできることが大事だし、コミュニティだとそれができる。例えば、ミートアップでは、先生は1人じゃないんだ。そうじゃなくて、このクラスでは、誰もが先生なんだよ。みんなが集まって、互いに学びあうことができる。例えば、テクノロジーのミートアップのゴールは、参加するみんなが、テクノロジーを使えるようになることだ。なぜなら、ソーシャルメディアを中心とする新しいテクノロジーは、どんどん影響力を強めているからね。ツイッターや、Facebookや……たくさんのメディアがある。これらの使い方を知らなければ、みんながその恩恵を受けられなくなってしまうだろう?」

 ——なるほどね。ところで、ミートアップやイベントで、スポンサーをつけることはある?

 マット「イベントによってはね。イベント単位でコストをカバーするために、スポンサーをとることもある。とるかどうかは、オーガナイザーによりけりだね。スポンサーは彼らのプロダクトを参加者にみせてPRできるし、サービスを試しに使わせることもできる。看板をつくったり、広告を見せたり、Tシャツなどのノベルティを配ったり、彼らの会社の話をしたりできる。

 そして、もうひとつのスポンサーのメリットは、参加者を雇えることだ。つまり、リクルーティングだね。イベントにはたくさんの才能が集まるから、彼らと接触するチャンスになる。イベントとスポンサーには、いい信頼関係があるんだ。」

 ——ベイエリアでは、企業も上手にイベントやミートアップを活用しているんだね。ところで、1つ聞きたいのだけど、なぜ君はミートアップを開催するんだい? コワーキングスペースにとって利益になることは分かったけど、君の個人的なメリットはあるのかな? 僕は、小規模のイベントをずっと続けるのがとても大変で、あまりお金にならないことをよく知っているからさ(笑)

 マット「自分のスキルを高めたり、ネットワークを広げるのに、ミートアップをオーガナイズすることは、とても有効なんだ。そして、自分自身のブランドも高めることができる。ミートアップやイベントに関わることは、とてもメリットのあることなんだ。いつだってネットワークが広がるし、いつだって自分を高めることができる。」

 ——ミートアップのプロモーションはどうやっているの? 集客や出演者のブッキングに苦労はないかな?

 マット「ソーシャルメディアを使ってる。例えば、ツイッターは長いこと使ってるよ。目的に応じていろいろなアカウントを持っているんだ。おかげでとても忙しいよ。僕はいつも、ツイートばかりしてるし、ブログも書いているよ。クレイジーなくらいにね。

 さっきも言った通り、Meetup.comのコミュニティをたくさん運営しているし、Ustreamで配信もしてる。Plancastも使ってるよ。あと、paper.liというサービスを知ってるかい? 僕はこれで、コワーキングについてのインターネット新聞を発行しているんだ。」

 ——僕も、ソーシャルメディアをたくさん使ってるんだけど、君はそれ以上だと思うよ。とても忙しそうだ。

(第3回に続く)

2012年2月 5日 (日)

マシュー・ハントさんインタビュー第1回~コワーキングスペースが育むミートアップカルチャー。

ミートアップカルチャーを育む共用オフィス空間「コワーキングスペース」

 サンフランシスコやシリコンバレー(西海岸ベイエリア)、あるいはアメリカ各地のピッチコンテストやネットワーキングパーティに数多く参加してみると、会場にどのような場所が選ばれるか、傾向がみてとれる。例えばそれは大企業のスペースであったり、大きなカンファレンスセンターの会議室だったり、会計事務所や法律事務所だったり、レストランラウンジだったりする。会場を提供する側は、無償で会場提供するケースがとても多い。彼らは、イベントに会場を提供する事で、人がその場に集まり、新しくやってきた人々が、自分たちのコミュニティとミックスされることを狙っている。また、企業によっては、M&Aやリクルーティング、自社サービスの売り込みなどの目的もあって会場提供している。特に西海岸ベイエリアにおいては、イベントをやりたい側と、やってほしい側の利害が一致する環境があるという。

 もう一つ、イベント会場として欠かせない場が、アメリカには多く存在する。それが「コワーキングスペース」だ。

 聞き慣れない人も多いかもしれないので説明すると、コワーキングスペースとは「共用オフィス」のことだ。スタートアップやプログラマー、デザイナーやクリエイターなどが活用することが多い。特に、テックコミュニティとの相性がよく、エンジニアやスタートアップの利用が多いとされている。

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コワーキングスペースで実施されているミートアップの「ネットワーキング」の様子

 コワーキングスペースには、デスクがあり、インターネットの環境があり、プリンターなどオフィスのファシリティがあり、キッチンなどの設備もある。ユーザーはデスク単位でコワーキングスペースと契約することで、1ヶ月単位、もしくは更に短い時間単位でスペースを借りることができる。もちろんファシリティは自由に使うことができる。設備をシェアするので、自身でオフィスを借りるよりも設備コストが遥かに安く済むのが特徴だ。例えばサンフランシスコにあるコワーキングスペース「シチズンスペース」やサニーベールにある「プラグアンドプレイテックセンター」では、500ドル/月からデスクやキュービクルを借りることができる。その家賃収入で、コワーキングスペースは運営されている。

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コワーキングスペースのデスク(シチズンスペース・サンフランシスコ)

 そして、コワーキングスペースは、イベントの設備を整えていることが多い。多くのコワーキングスペースには、プロジェクターがあり、共用のPCがあり、来場者開放用のWiFi環境があり、ワイヤレスのマイクがある。テーブルも椅子もそろっている。事実、多くの西海岸ベイエリアのコワーキングスペースが、ピッチコンテストや、ネットワーキングパーティやミートアップを、毎日のように開催していて、非常に賑わっている。特に西海岸ベイエリアのイベントカルチャーを語る上では、コワーキングスペースの存在を外して考えることはできない。コワーキングスペースのコミュニティは、イベントコミュニティと密接な関係を有しているのだ。

 なぜコワーキングスペースは積極的にイベントやミートアップを開催するのだろうか。かつてサンフランシスコのコワーキングスペース「シチズンスペース」に勤め、エバンジェリストとして活躍していたマシュー・ハント氏(Matthew Hunt 以下、マット)に話を聞いてきた。

 マットは、ソーシャルメディアに精通し、自らもオーガナイザーとして15本あまりのミートアップを運営している。日本人との交流も深く、日本やベイエリアにおけるコワーキングスペース事情にとても詳しい。彼の証言は、ミートアップカルチャーの醸成にコワーキングスペースが大きく貢献していることを、明らかにしてくれる。

マシュー・ハント氏インタビュー「コミュニティが混ざりあうことで新しいものが生まれるんだ」

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Matthew Hunt氏(ライター/元コワーキングペース「シチズンスペース」エバンジェリスト)

 ——君は2012年1月まで、シチズンスペースというコワーキングスペースで働いてたね。君のオーガナイズしたミートアップにいったけど、本当に素晴らしかった。そして、コワーキングスペースとイベントの関係を聞きたいと思ったんだ。そもそもコワーキングスペースとは、どんなスペースなんだい?

 マット「2007年頃に、シチズンスペースはサンフランシスコでスタートしたんだ。シチズンスペースはサンフランシスコと、サンノゼにもある。例えばサンフランシスコのシチズンスペースの会員になると、サンノゼのデスクも使うことができるし、そこに滞在することもできるんだ。とても、クリエイティブなネットワークができる。例えば、独立しているクリエーターとか、スタートアップ、開発者などがスペースを使っているよ。そして、彼らのネットワーク作りに、とても役立てている。

 コワーキングスペースではいろいろなイベントをやっている。ピッチとか、開発者のネットワーキングパーティとか、ハッカソンとか。サンフランシスコはとても交通の便がいいし、設備も整っているし、イベントもやりやすい。それで僕らも、数多くのイベントを打っていたんだ。イベントをやることでいろいろな人が集まってくるし、それが新しいネットワークづくりや、新しいコラボレーションのために役立つんだ。

 もし君が、コワーキングスペースに入居するとするよね。けど、その価格は決して高くはない。独立したオフィスを持つと設備コストがかかるけど、コワーキングスペースでは、そのコストをシェアできるから。

 そして素晴らしいことに、コワーキングスペースでは、入居者同士で、同じアイディアを共有し、一緒に働き、ものを作ることができる。

 コワーキングがもともと盛んだったテックコミュニティはもちろんのことだけど、例えば、あるメディカルコワーキングのスポットでは、ドクターがこのスペースを借りて、患者をみているんだ。まるでプライベートな空間のように使えるけど、オフィスコストは大幅に少なくて済む。コワーキングは、コンピューターにかかわる仕事だけのものではなくなってきているんだよ。

 そして、コミュニティが混ざり合うことで、新しいものが生まれることもある。例えば、メディカルコワーキングがテックコミュニティが一緒に集まることができれば、新しいメディカルテテクノロジーがそこから生まれるかもしれない。

 僕は、シチズンスペースで、15か20のミートアップやイベントを定期的に開催していた。君がきた「Startup Saturdays」グループのミートアップ「Startup Palooza-Eagle Startups」もその1つだよ。ミートアップスタイルのイベントでは、人々が集まって、あるテーマについて話をしたりする。たとえばワークショップスタイルでイベントをやることもあるし、例えば、あちこちにブースを設けて、移動しながら楽しんでもらうスタイルで開催することもある。もちろん、ピッチコンテストもやっている。それぞれのイベントは、Meetup.comにコミュニティグループを持っているんだ。」

(第2回に続く)

2011年12月22日 (木)

Meetup社CEO スコット・ハイファマンインタビュー 第3回 ~3.11とMeetup…危機を経て、コミュニティに対して為すべきこと。

あなたがやるべきなのは、シンプルな方法で、人々の日常生活をよくしていくことです。

 残り時間が少ないのを見計らって、次の質問は私にとって非常に大事な、どうしても聞きたかったことですと前置きをしながら、最後の質問を彼にぶつけた。

 ――ご存知のとおり、日本は2011年3月11日におきた大地震により、大きな危機に直面しています。日本人はこの日を“3.11”と呼んでいます。そして、これは、あなたがMeetup社の立ち上げを決意した“9.11”と非常によく似た呼称です。

 ――9.11がきっかけでMeetup.comが立ち上がり、アメリカにおいてはMeetupカルチャーは成長しているように見受けられます。それはおそらく、あなたが言うように、対面コミュニケーションの重要性にアメリカのコミュニティが気づいたからでしょう。しかし、日本ではまだまだMeetupなどのコミュニティの成長が不十分だと私は感じています。私たちは、日本で、どのようにしてアメリカのようにMeetupカルチャーを成長させ、ムーブメントを起こすことができるでしょうか。

Jisinn
9.11と3.11……同時多発テロからちょうど9年半後、日本は価値観を揺るがす
大きな危機に見舞われた。写真は筆者が5月撮影した、石巻市内の様子。


 「僕は、アメリカでも、Meetupはまだ、小さいと思っています。」
と前置きした上で、スコット氏はこの問いかけについて、慎重に考えながら、身振り手振りを交えながら答える。

 「毎日アメリカで10,000のMeetupが開催されるのは、確かに驚きです。しかし、あなたはムーブメントという言葉を使いましたが、9.11のあとに、いきなりブーンッと増えたわけではないのです。じわじわと増えてきたんです。」

 彼は、対面コミュニケーションの成長の鍵が「人々の日常生活を助けること」だと、私に説明した。

 「Meetup.comのことを聞くと、こんなことを言う人がたくさんいるんです。“とても素晴らしいしクールだ! 僕はMeetupの考え方が好きだよ!” ……それで僕は聞くんです。 “それでは、あなたは、Meetupに行きますか?” ……彼らは答えます。“いいや。けど素晴らしいはずだ! 素晴らしいコンセプトだね!” ……これは、大事な示唆を与えてくれます。つまり、ムーブメントを追って、それは素晴らしい、それはクールだという人は、実際にMeetupの場にはやってこないということです。」

 「あなたがやるべきなのは、シンプルな方法で、人々の日常生活をよくしていくことです。タガフィ(リビアのカダフィ大佐)関連のMeetupのやり方はきっとあなたにとって参考になるでしょう。もっと広めるために、このようなメッセージを発信していくのです。“3.11を経て、私たちはコミュニティをつくり、一致団結すべきだ”と。人々は、とてもよいことだと、共感するでしょう。」

Entrance
Meetup社オフィスが入居するビルの入り口。現在オフィスは
リフォーム中で、本来2フロアのところを1フロアに集約し、業務が行われていた。

 彼は、一番人気のあるMeetupはなんだと思いますか? と私に尋ねた。答えに窮する私に、彼は答える。「ママコミュニティや、スモールビジネスや、フィットネス……つまり、人々の日常生活の延長にあるテーマです。東京では、ママコミュニティが強力だそうですね? これらのテーマで、グループを作ることは、とてもユーザーにとって役に立ちます。何を人々が必要として、どうすれば日常生活がより良くなるか、しっかり見つめることが大事です。そして、人々のMeetupを見てみることです。たった1つのカテゴリーでも、ティッピング・ポイント――つまり、飛躍的にブレイクするポイントにまで持っていくことです。」

 予定していた終了時刻は過ぎていたが、彼は話を止めずに続けた。「もう1つ、ヒントがあります。Meetupにとって重要なことは“我々こそが~のコミュニティです”と周りの人々に宣言することだと思います。先ほども言った通り、私はNew York Tech Meetupをはじめました。今、ニューヨークにテック・コミュニティ、つまり技術者のコミュニティはあるのかとみんなに尋ねると、“あるよ”と答えが返ってくるでしょう。けど、もともとテック・コミュニティは私が作るまでニューヨークになかったんです。しかし、私は“我々こそがニューヨークのテック・コミュニティです” と人々に宣言しました。みんなは、それに力を与えられたんです。」

 会議室を出る間際に、スコット氏は、Meetup.comの日本語対応について、ちょっと困ったような顔をしながら教えてくれた。「アルファベット以外の言語を扱うのは、とても大変です。今日も日本語化のためのミーティングをしたところです。毎日毎日、勉強しています。」日本語版が出た暁には、日本の東京カルチャーカルチャーで、盛大なローンチパーティをやりましょう。そう笑いながら伝えると、彼も笑顔でこう返した。「素晴らしい、私も参加させて下さい。」

 日本でMeetupを普及させるために力を貸してください。そう言いながらスコット氏は、リラックスした表情で、私に握手を求めてきた。会議室には、先ほどまでのインタビューの熱気が、まだ残っている。終了の時間は、予定時刻から、15分ほどオーバーしていた。

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左から、今回のインタビューをコーディネートして頂いたMeetup社のエンジニア
溝畑考史さん、スコット・ハイファマン氏、そして筆者・河原あず。

(インタビュー、構成/河原あず 東京カルチャーカルチャー)


当インタビューの実現に力を貸して頂いた、Meetup社・溝畑考史さん、
(株)ソーシャルカンパニー・市川裕康さんにこの場を借りて御礼申し上げます。

2011年12月21日 (水)

Meetup社CEO スコット・ハイファマンインタビュー 第2回 ~草の根の対面コミュニティ・Meetup。

Meetupは、草の根のコミュニティなのです。

 あなたは日本でイベントを開催しているそうですね、どのようにイベントをオーガナイズしているのですか? とスコット氏はインタビュー中に私に尋ねてきた。ブロガーのトークショーが多いです、と私は答える。「興味深いテーマのブログを書いているブロガーに、イベントの開催を打診する。私たちのスペースには、ステージがあり、観客席があり、チケットを買ったお客さんがやってくる。そのような仕組みです。」

 すると彼は、ホワイトボードにステージと観客席がわかれた絵を描き、こういうことか? と聞いてきた。そうだと答えると、彼はこのように反応する。

 「ステージとオーディエンス。まるでテレビやミュージックコンサートのようですね。私はステージと客席が分かれた空間より、このような空間の方が好きです。」

 彼はホワイトボードに、たくさんの円を描きだしてこう言った。たくさんの円は、イベントのオーディエンスや主催者がステージとの境界なしに交流している様子を示したものだった。「会場にいる参加者が、お互いに話をして交流する。これがコミュニティです。Meetupとは、コミュニティなのです。」彼はやや興奮しながら、私に説明をした。

Whiteboard
スコット氏がホワイトボードに書いた「イベントとMeetupの違い」。
一番右の図はステージがあるイベントを示し、左の2つ図の円の集合は、
参加者がステージなどの境界を持たずに交流している様子を示している。
 


 それでは、Meetupとイベントの違いについて教えて下さい、日本人の多くは、Meetupは小規模のイベントのことだと誤解していると思います、と私は質問をする。

 「2つの大きな違いがあります。1つ目は、Meetupでは人々がお互いに会話をしているということ。たとえ、オーディエンスとステージが分かれて始まったとしてもです。オーディエンスが、ただのメディアコンシューマーになるのではなく、席も動くし、お互いに会話をする。イベントよりも、もっと、コミュニティに近いものです。」

 ではイベントとはどういうものでしょうか? 「例えば、ニルヴァーナが『Smells Like Teen Spirits』で “Here we are,entertain us(僕らはここにいるよ、さぁ、楽しませてよ!)” と歌っているでしょう? このように、イベントでは、参加者はチケットを買い、消費者として“entertain”される立場です。そして、全てのイベント参加者は、あくまで平等に扱われます。」


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Meetup本社入り口にあるMeetupのサービスロゴ。「Meetup」の文字のフォントは
何10パターンとあり、社員の名詞に書かれるフォントはそれぞれ異なる。


 彼は、Meetupについて「グラス・ルーツ(grass roots/草の根)」という例えを頻繁に使った。

 「例えば、僕はニューヨークで、New York Tech Meetupをはじめました。このような集まりは以前 “アソシエーション” と呼ばれてました。例えば、New York media Associationというようにね。しかし、アソシエーションという単語は、とても古いニュアンスだし、トップダウンなイメージがあります。対して、Meetupはボトムアップなイメージを持つ、民主的な、草の根な単語です。一面の芝生の下に広がる根っこを思い浮かべてください。」

 Meetupは草の根のコミュニティだとのことですが、コミュニティの定義についてはどうお考えですか? たずねてみると、スコット氏は、次のように答えた。

 「例えば、映画好きが集まって、その映画について話をする。これだけではコミュニティとは言えないと思います。あるテーマについて、“お互いにお互いのことをよく知って”会話をしている、そして一緒に共同作業をしている、それがコミュニティです。たとえば、あなたのFacebookのフレンズやツイッターのフォロワーは、コミュニティだと思います。だけど、私は信じているんです。私たちがフェイス・トュー・フェイスで会うことがなければ、お互いの関係性は深まらないでしょうし、強いコミュニティは絶対に生まれません。」



I HATE ADS.

 「Meetup」は、スコット氏の指摘するとおり、クラシカルな、ステージとオーディエンスが分断された「イベント」とは異なるものだ。それを裏付けるように、Meetup.comは競合とされるイベント関連のWEBサービス――例えば、イベント告知機能を持つ「Facebook」や、イベント登録サービス「Plancast」や、イベントの発券サービス「eventbrite」などとは、色合いがじゃっかん異なる。イベントが比較的盛んな地域――サンフランシスコやロサンゼルスで取材してみても、これらの競合サービスをイベント告知にほとんど使っていないというMeetup.comのユーザーも多い。

 特に、中小規模の、技術系ではないコミュニティには、Meetup.comは強力なブランド力を有している。なぜこのようなブランド力を獲得できているのか。そして、他の競合サービスとの違いは、どこにあるのだろうか。

 「Meetup.comはコミュニティを作るために構築されてます。たとえば…僕も愛用しているFacebookは、あなたが既に知っている人とあなたをつなげるために素晴らしいサービスです。一方で、Meetupは、あなたがまだ知らない人々やイベントとあなたをつなげるのに最適なのです。Meetup.comは、登録しているイベントやコミュニティのネットワークなのです。」

 「例えば、シリコンバレーではたくさんのテック・ミートアップ(技術系の人たちが集まる、パーティやコンテスト、勉強会など)があります。そこであなたが新しいMeetupをはじめるとしましょう。すると、あなたが属するMeetupグループのオーガナイザーがその情報をMeetup.com上でチェックすることができます。そして、そのオーガナイザーは、50人の参加メンバーにその新しいMeetupの告知を出すことができます。そうやって、イベント同士のネットワークを元に、新しいイベントがおこっていくのです。」

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Meetup.comの検索画面。郵便番号を入力し、ジャンルを検索すると
近郊で開催されるMeetupのレコメンドが表示される。関連イベントが
容易に見つかるのがMeetup.comの特徴。そしてイベントは、必ず主催する
コミュニティに紐づいている。


 他のサービスとの違いは、課金のポリシーにも強く現れている。多くのWEBサービスが、タイアップなどを含む広告収入を頼りにする中で、スコット氏ははっきりと宣言する。

 「I HATE ADS.(私は、広告が、大嫌いです。)」

 Meetup.comでは、グループの主催者が月額12ドルからの利用料を支払っているが、課金ユーザーの割合は、ユーザー全体の1%だと言う。

 「しかし、われわれにとっては、十分な収入です。ユーザーの負担もローコストにするべきだし、これ以上、値上げをするつもりもありません。いいプロダクトを作ってさえいれば、広告ビジネスに身を投じる必要はないのです」

(第3回に続く)

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